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第四話「加知弥親王(かちみしんのう)」



 あるとき桜姫は父氏郷に従って都にあがられました。はじめてみる都は、目にするもの耳に聞こえるものすべて驚くものばかりでした。華やかな都の風情をながめ暮らすうちに、深く暗い影のあることに気付かれた姫は、ますます仏の道に心をひかれていきました。
 ところがこのとき加知弥親王(村上天皇の皇子)のお妃(きさき)選びがあり、選ばれたのは桜姫でした。しかし姫はもののあわれを知り、御仏(みほとけ)にすがろうとする気持ちが強く、加知弥親王との縁談には耳をかさないで、因幡の国殿村の里に帰ってしまいました。
 加知弥親王は、これを聞いても姫への思いを断つことができません。わずかの供をつれて殿村へと旅立たれました。長い日数と苦労をかさねて、ようやく気多郡の宿(しゅく)の里までたどりつかれましたが、なれない長旅のため身も心も疲れはて、もう一歩も歩くことが出来ません。近くの家でお休みになられましたが、病はだんだん重くなるばかりでした。
 このようすは里人に知れわたり、郡司の紀氏郷に知らされました。氏郷は驚いて輿を持ってお迎えにかけつけました。親王は喜ばれて、病をこらえ、御輿にのられ神越谷(みこだに)の坂を越されることになりました。しかし病をこらえて、御輿にゆられての山越えは苦しかったのでしょう。ようやく峠の上に御輿がたどりつくと、御輿から下りられ路(ろ)ばたの石に腰をおろして休まれましたが、急に病が重くなり、手当のかいもなくここでなくなられました。
 恋しい桜姫の住居(すまい)する殿村の里を目の前にしながら、なくなられた親王のお心はどんなだったでしょう。親王のお心を考えて、氏郷や桜姫はもとよりお供の人々は、とめどもなく流れる涙をどうすることもできませんでした。そこで親王のなきがらをていねいにほうむって、勝宿(かしじゅく)大明神(だいみょうじん)としておまつりし、そのうえ宝照寺(ほうしょうじ)を建てて手厚く供養されました。

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