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第一話「玉川の老婆」
長い旅路に疲れ切った旅の僧が、日に焼けたまっ黒な顔をして、汚れたみすぼらしい僧衣(ころも)で、玉川のほとりの一軒の農家にたどりつきました。僧はのどがかわいていたので、「水を一杯飲ませてください。」と老婆にたのみました。しかし老婆は、「家にはあいにく水はありません。」と答えました。僧はかさねて、「いやいや、背戸(せど)を流れている、あのきれいな水を一杯お恵み下さい。」とたのみましたが、老婆は、「うちには、そなたのような乞食(こじき)坊主(ぼうず)にやる水はないわいな。」と憎々しげに言って僧に一杯の水も与えませんでした。旅の僧は老婆のあまりな態度にあきれて、「そんなに大切な水なら、大事にしまっておいたほうがよかろう。」とつぶやきながら立ち去って行きました。
ところがいままでサラサラと音を立てて流れていた川の水が、急になくなってしまいました。それからは玉川では、飲み水にも事欠くようになったといわれています。
これは弘仁(こうにん)(810〜823)のころのことで、この旅の僧は弘法大師で、大師が諸国を回っておられたときのことだそうです。
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